大学時代に美術史を履修したことをきっかけにアートの面白さと美術館の楽しさに気づき、いつしか夢中になっていたアートの世界。
推し活の遠征に合わせてその地の美術館を巡るのが生きがいだった学生時代。
暇さえあれば展覧会情報をチェックし、旅行がてら美術館を巡ることが一番の息抜きだった会社員時代。
だが、子どもが生まれるとそうもいかなくなった。
上の子が生後半年過ぎた頃、ベビーカーに乗っている時期なら何とかなるかもと思い、一度だけ子連れでバルセロナ展(札幌芸術の森)へ行ったこともあったが、集中・没頭できないことがストレスでそれっきりになってしまった。
時々アート関係の本を読むか、過去に行った美術展の図録を見返す程度で、趣味とはいえなくなるほど遠のいてしまっていた。
前置きが長くなってしまったが、そんな時に出会ったのが原田マハさんの「楽園のカンヴァス」だった。
小説家の存在とアートに関係する作品が多いことは知っていたが、今までなぜか手に取る機会はなく…ある時思い出したように作家名で書棚を探し、買おうと思ったのがアンリ・ルソーの「夢を見た」が表紙になっている「楽園のカンヴァス」だった。
当時、二人育児に追われ、田舎暮らしに辟易としていたわたしには読書する心の余裕もなくただただ同じような毎日を過ごしていた。
(その時期は自分の中でも特に情緒不安定だったようで「もう無理だ。やっていけない。地元に帰りたい。」と突然心がポキッと折れたように脱力して、気づいたら夜中泣いてるとか、自分でも自分が怖かった。)
見かねた夫が誕生日プレゼントとして推し活時間をくれた。
子どもと夫を残してひとりで東京一泊二日。推しの10周年記念で初めてのソロコンサート旅行だった。
その行き帰りの機内で読んだのが「楽園のカンヴァス」だった。誰にも邪魔されず没頭して読める時間もひとしおだったが、引き込まれるように作品を読み込み、読後もしばらく現実に帰ってこれなかった。
「楽園のカンヴァス」はアートを初めて面白いと感じたあの瞬間の高揚、わくわくする気持ち、友達と会った時のような幸せな気持ちになれることを思い出させてくれた。
そして、今までルソーに持っていたイメージを覆され、ルソーの愛らしさや魅力に気づけたきっかけになった。
改めて美術史の勉強をしたいと思い始め、「母親」として生きることだけでなく、「自分」として生きたいという選択肢を見出してくれたきっかけにもなり、働き自分で稼ぐことを決めたきっかけにもなった。
そんな様々なきっかけをくれた原田マハさん。
彼女の「アートは友だち」という言葉が大好きで、彼女の作品を読むたびにその思いがひしひしと伝わる。
「暗幕のゲルニカ」「デトロイト美術館の奇跡」「常設展示室」「あの絵のまえで」などなど・・・こんなにアートへの愛を感じる作家さんは出会ったことがないし、彼女の作品の中には自立した女性も多く登場する。
それがまた自分の生き方を考えるきっかけとなり、ふさぎ込んで狭まっていた自分の視野を広げてくれた。
原田マハさんはアートの楽しさだけでなく、その作品を通じて幸せや自分の生き方について考える時間を与えてくれたわたしの救世主だ。